有機合成化学は,単純な分子から高い価値を生み出す力を持っています。これは有機合成化学の大きな魅力の一つです。例えば,化石燃料から医薬品,農薬,機能性材料をつくることができます。私たちはあらゆる生活の場でこれらの恩恵を享受しています。有機化学者は,目には見えない分子を分子設計し,目的の化合物をつくることができます。これらは数段階で済むものもあれば数十段階もの工程を必要とするものもあり,様々な化学反応が必要となります。合成の工程数が少なければ廃棄物が少なくなり,環境に優しくコストも安くなります。私たちは,医薬品や機能性材料の開発に必要な新しい有機合成反応の開発に取り組んでいます。特に,異なる2種類の金属原子を有する反応中間体を利用した反応開発に取り組んでいます。
研究内容
辻−トロスト反応に代表されるように,π−アリルパラジウム上のアリル基はアリルカチオン等価体としてアリル化反応に利用されています。これとは対照的に,σ−アリルパラジウム中間体が求核的な性質を示すことが見出されました。これを契機として,σ−アリルパラジウム中間体形成を鍵とした様々な求核的アリル化反応が開発されています。一般に,σ−アリルパラジウム中間体が求核性を有するには,パラジウム上に電子供与性能が高いアルキル配位子やNHC配位子を配位させる必要があります。最近では,σ−アリルパラジウム中間体をアルデヒドやイミンへの触媒的不斉アリル化反応へ応用した例や,二酸化炭素の固定化反応に利用した例も報告されています。このように,従来のアリルパラジウムに関する研究は,パラジウム上のアリル基の極性を変化させることに凌ぎを削ってきたと言えます。このような背景のもと,私たちは,アリル位にパラジウムとメタロイドが置換した中間体を利用することで,新たな炭素−炭素結合形成反応が開発できると期待し取り組んできました。
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